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木工作家 工作小屋moku-renの品川雅男さん[糸島と珈琲と、ひと。 - 第二杯目 -]

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木工作家 工作小屋moku-renの品川雅男さん[糸島と珈琲と、ひと。 - 第二杯目 -]

2018.03.01

食にまつわる生活雑貨を手づくりする作家 品川雅男さん

 

白い口ひげと短い髪、グリーンのチェックシャツにアイボリーのダウンベストと茶色いワイドパンツ姿。

作業しやすそうなスニーカーと腰に巻かれた年季の入った革ベルトが " 仕事をするひと " という印象を与える。

 

「ちょっと散らかってますが。」

 

小さな駄菓子屋くらいのほどよい大きさの建物で通りから見える窓ガラスにはカッティングボードの型紙のシルエットが並び、入り口には手づくりの木製扉が取り付けられている。

「ここで普段作品作りをしてます。」

伊都安蔵里から車で5分、一度左折するだけで到着したのはご自身で屋上テラスを作られたという秘密基地のような木工の作業場。

工作小屋 moku-ren 品川雅男さんの仕事場です。

 

 

工具や金属のパーツが仕舞ってある棚の前に木屑をかぶったCDの束が歪んだタワーのように重ねられていて

その頂上にはピンクフロイドの「THE DIVISION BELL (対) 」のジャケットが見える。

 

ーー音楽お好きなんですね、ピンクフロイドも聴かれるんですか?

 

品川さん : 

「高校生の頃に修学旅行をさぼったんですよ、そのとき京都で開催していたルネ・マグリットの展示を観に行ったんです。

(ルネ・マグリットはベルギーの絵描きで、レッドツェッペリンやピンクフロイドのアルバムジャケットアートを手がけたヒプノシスに影響を与えたアーティスト)

そこで声をかけて来たひとりの男性に『ピンクフロイドの来日公演のチケットが余ってるんだけど買わない?』と言われて買って観に行ったのが聴きはじめたきっかけです。

それ以降プログレが好きでピンクフロイドもよく聴いてます。

もともと民族音楽がすごく好きで今はキューバ音楽をよく聴きますね。」

 

 

木製のスプーンや木皿、様々なカタチに切り取られたカッティングボードと切れ端から削りだされたパスタ用のヘラ。

品川さんの作品は食にまつわる生活雑貨をメインに揃えられている。

 

外は小雨が降りひどく冷え込んだこの日、一通り作業場を案内してもらったあと自宅のギャラリーも見せていただきご自身で焙煎されたというコーヒーをいただきながらさらに詳しくお話を伺いました。

 

 

ーーリビングの本棚に料理本がたくさん並んでますけど奥様はお料理好きなんですね。

 

品川さん : 

「いえ、その辺にささってる本はほとんど僕のです(笑)

一時期は料理教室にも通ってたりもしたんですよ。日々の食事は奥さんがやってくれますが魚を刺身にさばくのとパスタ麺の茹で加減をみるのは僕の担当です。

食文化に関心があるんですよね、だからか作品も食にまつわるものが多いです。

ちなみに作業場の屋上にあったテラスも少しづつ自分で手を着けて3年くらいかけて完成させました。」

 

木工をはじめるまでの人生。

 

ーーいつ頃から木工をされてるんですか?

 

品川さん : 

今年60半ばになる歳なんですが、木工をはじめ今4年くらい。

糸島に引っ越してきたのも4年前なんです。

もともとは福岡の早良区生まれの小郡育ちで、糸島に来る前まで長い間東京に住んでいました。

 

昔はその辺を走り回ってるような普通の学生でしたよ(笑)

美術が好きで、高校のあと美大に通おうと東京に行って受験のために絵を一年勉強したんです。

でもなんか違うなと感じて絵が描けなくなっちゃって。

結局大学には行きませんでした。」

 

 

品川さん : 

「それからはいろんな仕事をしましたよ、

杉並区で二年間集合住宅の管理人をしてたり学生運動や劇団員やってた人たちが立ち上げたビルの清掃会社で働いたり。

そんな中でこれだったら自分でできると思って31歳の頃に内装工事の会社を立ち上げたんです。

結果その仕事を60まで続けて、45歳くらいのころから器と手ぬぐいも取り扱いをはじめてその一角を喫茶コーナーにもしていました。

今も木工作品と一緒に手ぬぐいの販売もしてるんですけど、蚤の市でみつけた浴衣の柄を染める型紙を使って生地を染めてます。」

 

 

そう言って奥から手ぬぐいの生地を染める際に使う型紙が何枚も出てきて、これがこの生地の柄になるんですと教えてもらった。

どれも手仕事で仕上げられた繊細なものばかりで眺めているだけでも充分に楽しい。

 

糸島への移住

 

ーー31歳でご自身の会社を立ち上げられて、その後も東京での生活を送られていたと思うんですが、糸島へ引っ越すことは最初から考えられていたんですか?

 

 

品川さん : 

「東京に骨を埋めようとは思ってなかったですけど、かといって福岡に戻って来ようってことも考えてなかった。

違う場所の田舎で暮らそうと50歳になるころから時間ができては旅行をしながら次の住処を探しはじめた。

おもに島を探してて、年に何島かまわってました。沖縄にも沖縄民謡を聴きに行ってましたね。

 

福岡に戻るつもりはなかったけど親の高齢化もあって近くには居ようと。

最初はうきは市の吉井あたりも見に行きました、あと八女とか黒木とかも。

海の側で古い家があったら最高だなと思って探しまわってるうちに60歳くらいの頃糸島に物件が見つかって、早く手をつけないと誰かに取られると思ってすぐ決めた。

糸島がブームとかは全然知らなかったですけどね(笑)」

 

糸島で動き出した工作小屋 moku-ren

 

品川さん : 

「木工は糸島に来てからはじめました。

木工自体は若い頃から趣味でやっていて、20代の終わり頃東京の品川にある木工の職業訓練所に行こうとも考えてたくらいだったんです。

糸島で、機械の大きい音を出せる場所にも住みはじめたので機材を揃えてはじめました。

僕にとっては自然な流れでしたね。

地域の方の繋がりで子どもたちとお箸作りをしたりと今は木工教室もやっています。」

 

 

品川さん : 

「30代から自分で始めた内装の仕事のときにいろんな機械を使ってたんですが木工に使う機械も似たものが多いんです。

道具や技術や考え方、木工と内装には通じるものがあるんです。

電動工具を使うにはコードを引いて来なくちゃいけない、どこから電源をとってどんな延長コードを使うのか、どんなドリルを選ぶのか基本的な部分は一緒なんです。

同じ機械もあるし、作りが似てたら何となく使い方も分かったりする。

この仕上がりまでもって行かなくちゃいけないとか、デザイン的に受け入れられるかどうか、受け入れられにくいかもしれないけど自分らしさみたいなものを残すバランスを考えながら作ってたりします。

まだ木工暦は4年くらいですけど、僕としてはそれまでに自分が生きてきた時間があるのでそれが自信になっています。

 

自分からなにか情報を発信する事はあまり多くなくて、その時間があれば作品をひとつでも多く作っていたい。

手にしてくれた方が他のひとに これよかったよ と広めてくれて、そうやって誰かの声をきっかけに広がっていってほしいですね。」

 

 

ーーちなみに木材を持ち込ませてもらってそこから何かを作ってもらうという事もできるんですか?

 

品川さん : 

「できますよ、例えば昔の家具なんかがずっと倉庫に眠ってたりするといい状態で数十年かけて乾燥してたりするんです。

そうすると材料としてもいいものだったりするのでそこから削り出してお皿を作ったりまな板を作ったりもできます。

もしそんなものがあれば一度相談してもらえれば。」

 

 

ーーmoku-renという名前も作品の雰囲気にすごくぴったりだなあと思いました。

 

 

品川さん : 

「(リビングの窓から庭先を指差しながら) あそこに木蓮の木が見えますでしょ。

あれを見てシンプルにモクレン  moku-ren  にしました。

最初はクレソンにしようかなと思ってましたけど反対されて(笑)」

 

作品だけに留まらないものづくりへのこだわり

 

品川さん : 

「ショップカードみたいなものがあるんですけど、これも自分でいろいろ考えて作ったんです。

地図をこんな感じに入れてほしいとか、青をメインにしてますけど場所によって濃さを変えていたり、

海に描かれてるクジラも最初しっぽだけだったものを潮をふいてる絵にしたほうが見る人には分かりやすいだろうということで変更したりしました。

表に書かれてる似顔絵は僕なんです、ひらめきのイメージで頭の上に電球を書いてその中のフィラメントをハートのカタチにしてたりします。

ハートの赤い色もあえて枠からはみ出させてきれい過ぎない味のある雰囲気にしました。

 

木工作品を作るときも細かいところまで手を入れるようにしています。

例えば作品に空いてる穴も傾斜をつけて滑らかにしたり、角の部分もちょうどよいアールに仕上げたり。

カッティングボードに関しては他にも闘牛士の帽子をイメージして取っ手のカタチを削り出したり、カーブを女性的なやわらかい線で仕上げたりしています。

僕としては和でも洋でも使い勝手のいいものにしたい、そうしないと完成したとは言えないんです。」

 

こだわりは仕上げに使う塗料選びにも。

 

品川さん : 

「僕の作品は食卓に並ぶものが多い、そうすると食材に触れる事も多いですよね。

なので仕上げに使用する塗料も食品衛生の基準をクリアしているものだけを使っています。

 

例えばギャラリーに並んでる作品にもリボスというメーカーの自然健康塗料を使っていて、子どもが舐めたり飲み込んでも安全で玩具の塗料としても使われているものです。

小さいお子さんがいらっしゃる方は気にされると思うんですが、安全なものしか使っていませんし何を使っているか聞かれたらちゃんと伝えるようにしています。」

 

《ドイツの自然塗料メーカーリボス社》

創業40年を迎えるリボス社は現在もオーナーであるローズマリー・ボーテさんをはじめとした女性植物学博士16名で設立された会社。

シックハウス、シックスクールなどの病名がまだない頃、ホルムアルデヒドなどの揮発性有害物質がアレルギーや喘息を引き起こしている問題を解決すべく天然成分の塗料開発に着手。

作る塗料は農薬不使用で有機栽培の亜麻仁油を使用し、唾液や汗への耐性も高くヨーロッパの厳しい安全基準をクリアした天然塗料。

製品に含まれる成分を100%表示するなど製品作りへの姿勢も世界的に高く評価されています。

 

これまでと、これから。

 

品川さん : 

「ヨーロッパで家具のデザインなんかをしてるのはけっこうおじいちゃんだったりするから普段は年齢的なことはあまり考えていないですけど、体力的に現役で元気に作れるのはあと10年くらいかなと思ってます。

こうなったらいいなあという願望としては、自分の家では道具もないし機械の大きい音も出せない、そんなスペースもない、だけど木工好きだからやってみたいという人たちがここに来てくれて一日とか半日とかかけて作りたいものを作って『また来週来まーす』みたいな。

遊びに来てるようなものですよね、

その間僕は僕なりに作品を作りながら必要な時はアドバイスをする、必要なければ勝手にやってもらってていいし、そういう場所にできるといいなと思うんです。

みなさんが作ってる間僕は屋上のデッキでビールでも飲んでるとかさ(笑)

ある程度時間になって、気候がよければ『バーベキューやるけど食ってく?』とかね。

今体験で来てくれる人たちも子育てがあったりしてなかなか頻繁には来れない事も多いから今すぐに実現できなくてもいいけどいつかそうなったらいいなと思ってます。

好きな人たちが集まってゆるくやってるのもいいなと。

 

カッティングボードだとデザインを絵に描いて板から削り出して完成までだいたい2時間くらい。

自分で作ったものが完成して家に持って帰って使う。

ものづくりを通して接点ができる、だからおもしろいと思うんです。」

 

 

ーー近い将来ここで新しい木工作家さんが誕生したするのも素敵ですね。

その時はまたこうしてお話を伺いにおじゃまさせてください。

 

ところで、今日出していただいたコーヒーがすごくおいしかったんですがいつもどちらで買われてるんですか?

 

品川さん : 

「実はこれ自分で豆を焙煎してドリップしたんです。

東京で会社を立ち上げた時に喫茶コーナーを持ってたりしたという話をしたんですが、45年前に吉祥寺の『もか』という喫茶店に行った時に飲んだコーヒーのおいしさに衝撃を受けたんです。

当時コーヒー一杯は¥250〜¥280くらいだったと思います。

この店は自家焙煎の店としてとても有名なんですけどその味が忘れられず、糸島に引っ越しをしてからになるんですが八王子のお店から本豆を買い付けて自分で焙煎をはじめました。

専用の道具なんて持ってなかったので最初は銀杏を煎る網で(笑)。

コンロの火ではじめた焙煎も今は炭に火を起こしてます、網も改良して料理用のザルをふたつ組み合わせて自作しました。」

 

 

ーーコーヒーミルも年季が入っていてすごく味が出てますね。

 

品川さん : 

「これはドイツで作られたコーヒーミルでもう40年くらい前のもの。

蚤の市で見つけてきました。

ネルドリップで淹れる時のちょうどいいスタンドがあんまりいいのがなくて結局今使ってるのも自分で作りました。

欲しいところに引っ掛けるところをつけてあるし高さもいい。

木工やっててよかったです。

 

支えをつけたおかげで電話が鳴っても手が離せる(笑)」

 

 

ーーお話を伺いながら二杯出していただいて、どちらも少し味が違ったように感じました。

 

品川さん : 

「最初に飲んでもらったのは先日焙煎したブラジル豆のストレート、今朝淹れたもので少し時間がたったものですね。

今飲んでもらってるのが今日焙煎したばっかりの豆で、ブラジルとコロムビア、モカ、マンデリンをブレンドしています。

今日のは特にうまく焙煎できました(笑)」

 

 

とても深く煎られた豆はそのまま食べてもおいしいよと品川さんが言われる通り、とても香ばしくすぐに噛み砕けてしまうくらいでした。

 

 

品川さん : 

「煎りが深くなるとポリフェノールやタンニンがなくなってお腹にもやさしくなるんです。

そうする事で旨みと甘みも感じやすくなる。

深煎りのコーヒーだったら糸島で一番の自信がありますよ(笑)」

 

 

 

品川さん : 

「淹れる時や焙煎する時は時間を計りながら集中します、その分あとからの楽しみがあるのがいいんです。

 

うちの木工小屋やギャラリーではコーヒー一杯いくらとかで出したりはしてないですけど、見学に来られた方だったりギャラリーに立ち寄っていただいた方にはたまに出したりしてます。

来ていただいたらいつでもお出ししますよ。」

 

 

今回、予定よりも長い時間品川さんのところに滞在してしまったのはこのおいしい深煎りコーヒーが原因だったのだと思う。

隣の部屋には廃材になった木のチップを燃料にするというストーブがあって、火の穏やかな温もりが家中を包んでいたからという事も付け加えておかなくてはいけない。

 

木工とコーヒー。

どちらもこだわりを持たれている品川さんのギャラリーへみなさんにもぜひ足を運んでいただきたいです。

そこには食に魅了された職人(食人)の想いがこもった空間が広がっています。

 

 

ごちそうさまでした。

 

 

 

写真・絵・文 : 山口達也

 

 

《SHOP情報》

工作小屋 moku-ren

819-1621 福岡県糸島市二丈上深江1041

TEL : 090-2907-0909 (ギャラリーへお越しの際はお電話ください)

 

 

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